2005年06月28日
うん、これは…簡単だな
内田樹の研究室『「ここにいるはずのないやつ」と教師の要らないゼミについて』より。
内田先生は、自分も含めて参加者全員が非専門家である中国問題のゼミを指導している。この方式は全員に積極的参加を促すことになり、教育的に極めて効果的とのこと。
ふつう私たちは「専門的知識を備えた人間が指導しなければ教育は成立しない」と考えがちだが、そういうものではない。 仮説の提示と挙証、その反証という手順についてルールをわきまえたレフェリーさえいれば、どのような分野の主題についても学生たちは実に多くのことを学ぶことができる。 逆に、知識はあるが文脈構成力のない教員に指導されている限り、学生はたぶん何も身に付けることができない。
ここで敢えて学生が教師から学び取るものを考えると、それはおそらくレフェリーのやり方、つまりは議論の進め方なのだろう。別に学生の中にレフェリーを務められる人が居ることもあるだろうし、むしろそういう人が多ければ多いほど無用な議論の逸脱が少なくなり、密度の濃いゼミになるのだろうとは思うが。
僕が工学部の研究室に居た頃、「必ずしも今の研究内容を生涯の仕事の内容にする必要はない。一番大事なのは研究を通じて、資料の調べ方、内容の纏め方、発表や議論の仕方を学ぶところにある」という話を良く聞いた。先生にはよく「自分の世界の話だけをしていて全然周りに伝わらない」と怒られながら、激しい議論の相手になって頂いた。圧倒的に知識量で勝る相手に対しても、自分が持つ確かな(そしてわずかな)知識と限られた論理思考から導き出した結論は通用するのだということを実感出来たのは一重にあの恐ろしい発表練習のお陰である。
そして会社に入ってソフトウェアエンジニアという職業になってからは、教師は居なくなったものの「勉強会」というものが時々存在した。大抵は、技術についての本(大抵英語)を1冊選んで、皆が1章読んでは集まって、内容について話し合うというもの。1人で本1冊まるまる読んで勉強するのは疲れるし、質疑によって英語の誤読も修正されるし理解も深まる、という趣旨による。
アメリカに移籍してからも、人づてに存在を知った、他の部署のメンバーが自主的にやっている "Book Study" に参加している。僕が参加した1冊目は "UML Dischilled". 普通のソフトウェアエンジニアで、全てのUMLの図を知っている人は多分居ない。メンバー全員が一部の知識はあるが包括的知識を持っていない状態で進んでいった。本に書いてあることと今までの自分のわずかな経験を元に疑問と推測と議論が交わされ、なかなか面白いものだった。
その次の本は "Code Complete Second Edition". どういう手法でソフトウェアを書けばよいか、何に注意しながら設計をし、開発を進めるのが良いか…という本である。つまり、ベテランエンジニアなどには「20年の経験に基づく意見」がある分野についての本である。やんぬるかな、メンバーは殆ど同じなのに、議論が活性化しなくて逆に面白いぐらいだ。殆どのメンバーは同じ部署で働いているだけあって(僕は違うのだが)、コーディングのベストプラクティスについて大筋で既に合意してしまっている。本に書いてあることと自分がやってきたことが一致していると「うん、そうだよな」と次へ進む。両者が食い違うと「俺たち、これをやったことがあるよな。駄目だったよこれは」で、殆どの人がうなずく。たまに皆の合意に反論する人が居ても、引っかからずに「流されて」しまう。1人だけ激しい反論をする人が居るのだが、最近はその人が話し始めると聞くのを止めてしまう人がかなり居る…。自分も含めて、しっかりしたレフェリーになる人が居ないという事になってしまうのだろう。
そういうわけで、最近は参加するのが少々億劫になってきた。だんだん "Book Study" のメンバーが、独りよがりの自作の詩をお互いにべた褒めしながら発表しあうオタク系文芸部員たちに見えてきた。そういう文芸部員を見た事があるわけではないけれど。
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