2005年04月04日

リリイ・シュシュのすべて

2001年、世の中がティーンエイジャーが度々起こす凶悪犯罪に慄いていた頃にこの映画が公開された。テーマは「14歳の、リアル」。1996年に起こった神戸連続少年殺人事件の犯人を意識した設定である。

岩井俊二監督は1996年のスワロウテイル以来、どうも意識的にメジャーな映画館で全国公開される大作を避けているようにも見えたが、テーマがテーマだけあってか、この作品はメディアの露出量が多かった記憶がある。6時のローカルニュースで「全ての教育関係者、大人たちが是非見るべき映画だと思います」と、アナウンサーが真面目な顔で紹介していた。

蓮見雄一は内気で大人しい中学二年生。入学して間もなく、同級生の星野と知り合う。星野はスポーツも勉強も出来る優等生だが、嫉妬から来るいじめにあっている。彼らは友人になり、夏休みにはグループで沖縄旅行に行く。旅行中に2度命の危険に晒された星野は、2学期の初日から豹変する。級友たちを仕切り、いじめ、万引き、売春などを率先して行う。雄一は時にはいじめの標的にされ、時には使い走りとして働かされる。世界が終わったと思えるほどの苦汁の日々の中、雄一は「リリイ・シュシュ」の音楽を聴き、自ら主宰するファンサイトへの書き込みにのめりこんでいき、他の参加者と交流を深めていくが…。

「岩井俊二は記憶の魔人だ」という記述を何処かで見たことがある。細部を忠実に再現することにより、自分がそこにいた頃を思い出させ、その頃の雰囲気、感覚、感情を頭の中に生々しく蘇らせるのだ。これまでにも、小学生を描いた作品、女子高校生大学生を描いた作品を作ったことがあるが、どれを見ても、その頃に自分が嗅いでいた空気を強く感じさせてくれる。

この映画も、あの中学生の頃の不安、焦り、憧れ、嫉妬がない交ぜになった感覚を呼び起こしてくれる。あの頃の自分を思い返すと、全ての登場人物が少しずつ自分の中に住んでいたような気がしてくる。弱いままで何も出来ない雄一も、優等生としての苦悩を持ちながら周りの心無い噂や反発に傷つく星野も、星野の言いなりになってしまって売春を繰り返す津田も、常に力強く生きている久野も、久野に強烈な嫉妬を持つ神崎も、ひたすら真面目な佐々木も。

これは裏を返せば、自分もかつては、彼らのような危うい位置に立っていたと言うことではないか。雄一のような、星野のような家庭環境に自分が置かれていたら、彼らのように少年犯罪に走っていたのではないか。少年たちに共感し、彼らの行動の軌跡が説得力を持ってくると、凶悪犯罪を犯した少年たちとあの頃の自分たちがどう違うのか、自信が持てなくなってくる。そう言えば、あの頃の自分の周りにも、絶対に助けてくれない中学教師は居た。

印象に残った台詞。
「答辞読んだからって、いい気になってんじゃねーよ。」
「本当は1番じゃなくて、7番なんだよ。」
「こんなの、買えばいいじゃない!」
「なんて言うか…君たちが主役?」
「あいつなら救ってくれるよ。星野と戦ってくれるよ。あいつはそういう奴だよ。」
「凧に乗りたいな。空飛びたい。」

見た直後にはもう1度見たいとは思えないが、しばらく経つとまた見たくなっている。それは映像が綺麗だからでもなく、昔を思い出せるからでもないと思う。ひょっとしたら、自分の弱い部分と強い部分を見直すことが出来るからかもしれない。

日本版DVDは4月初め現在品切れ状態らしいが、アメリカ版を週末に偶然見かけた。また思い出して、また見直してしまった。

Trackback on "リリイ・シュシュのすべて"

以下9件のトラックバックはこのページのエントリー"リリイ・シュシュのすべて"を参照しています。

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» リリイ・シュシュのすべて

  • 2005年04月05日 01:55
  • from a story

主演市原隼人、忍成修吾、伊藤歩、蒼井優 監督・脚本岩井俊二 製作2001年、日本 正義のない社会 中学生のいじめをテーマにした岩井俊二監督作品。地方... [続きを読む]

» リリィ・シュシュのすべて

  • 2005年04月05日 08:59
  • from яoots

友人が以前絶賛していたのですが、ようやく観れました。後味はかなり良くないです。 概ね満足ではあるんですが、 「この映画、ここまで分かりづらくしなくても良かった... [続きを読む]

» リリイ・シュシュのすべて

  • 2005年04月05日 19:09
  • from Do you know?

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  • 2005年04月06日 00:12
  • from 孤独な散歩者の大学生の夢想

 この映画をつい最近観て、そのエーテルという神秘性とそれに惹かれていく中学生の姿がかなりショッキングだった。なぜなら今の時代大抵の人は神を信じてはいない。そんな... [続きを読む]

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  • 2005年04月06日 19:18
  • from ラブラブシネマ&ミュージック&ドラマ日記

これも岩井監督作品です。映画館で見ようかどうしようか迷っていて、結局後からビデオで見ました。これが公開になった頃はあんまり映画に興味がなく、よっぽど興味が湧かな... [続きを読む]

» *Cinema* リリィ・シュシュのすべて

  • 2005年04月07日 00:39
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http://blog.livedoor.jp/jepense3/tb.cgi/14080798  [続きを読む]

» ごめんなさいも聞き飽きたよ!

  • 2005年04月08日 01:25
  • from 自分の事が分からないっっ!!!

これ、私の好きなドラマの1シーンです。 何のドラマかわかった人には100点あげます(笑) リリィ・シュシュ観ました。 岩井俊二が好きだなんて、恥ずかしくて友達... [続きを読む]

» リリイ・シュシュのすべて

  • 2005年04月12日 20:52
  • from prototypeシネマレビュー

今や日本を代表する監督の一人である岩井俊二監督作品。岩井俊二と言えば「スワロウテ [続きを読む]

» 【DVD】リリィ・シュシュのすべて

  • 2008年09月19日 05:35
  • from 新!やさぐれ日記

■動機 岩井俊二観賞 ■感想 そーきたか・・・ ■満足度 ★★★★★☆☆ つかれた ■あらすじ 中学生になった蓮見雄一(市原隼人)は同じクラス... [続きを読む]

Comment on "リリイ・シュシュのすべて"

トラックバック、ありがとうございました。
折り返しこちらからも送らせていただきました。

僕の理解力が足らないのだと思うんですが、
なんでこの映画、登場人物と同じ経験してないのに同じような後ろめたい気持ちや、既視感を感じるんだろう、
と、少しモヤモヤしてしまっていたんです。
がりゅうさんの記事を読んで、
痒い所に少し手が届くようになった感じです。

なかなか一人ではちゃんと理解出来ない話が多いので、
他の方の解釈なんかも読み比べると、
また今度観た時の印象を随分変わるんだろうなあと思いました。
再度鑑賞する時が楽しみです。

重いので気軽には見れませんけど(笑)
それでは失礼します。

  •   B野
  • 2005年04月05日 09:06

コメントありがとうございます。
岩井監督の作り出す「既視感」には本当に脱帽です。本文でリンクしてますが、まだ観ていなかったら「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」(小学生)、「花とアリス」(高校生)、「四月物語」(大学生)も観てみてください。
非常に強い既視感を体験できます。ついでに、これら3作はリリイほど重くないので、気軽に観ることが出来ます(笑)。

TBありがとうございました★はじめてみたときはすごく衝撃でした 「あの頃の自分を思い返すと、全ての登場人物が少しずつ自分の中に住んでいたような気がしてくる」と書かれているのを読んで、とても納得してしまいました。だから観ていて苦しかったんだなぁ と。思い出したくないことを思いださされたもやもや感 岩井監督の作品の中では好き嫌い大きく分かれる作品のようですが、私は好きです でも一番はやっっぱ花とアリスですが☆

  •   yuki
  • 2005年04月06日 19:24

トラックバックありがとうございました。
こちらからもさせていただきます。
「岩井俊二は記憶の魔人」という言葉にすごく納得しました。
確かに、岩井監督の作品は細部までリアルに描かれていますよね。
だからこそ映画に引き込まれてしまうというか、自分がそこにいるような錯覚を起こしてしまうのかも知れませんね。
この映画を見たのは2回目で、もう岩井作品はいいかもって思ってましたが、なんだかまた見たくなってきました。
ほんとに、不思議な監督です。

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