2000年07月23日
あの方だったら間違いねえだ
前回の続き。
スモールクレイム(Small Claim)というのは、簡単な民事裁判制度のこと。賠償額の上限は5000ドル(50万円ぐらい)。それ以上の額を要求するときには通常の裁判手続きを行う必要がある。弁護士を立てることは出来ず、裁判中の弁論は全て自分で行い、大抵はその場で結審する。弁護士費用に引き合わないような小さな被害に遭ったときでも裁判が行えるわけで、割とポピュラーな制度らしい。
大抵の裁判所にはスモールクレイムの相談サービスがあるそうだ。試しに行ってみると、本職の弁護士らしき人が非常に丁寧にアドバイスしてくれた。友人の車を借りているときにぶつけられたというこのケースの場合、車の持ち主である友人が事故の相手の運転手と運転手の会社を「車を壊された」と訴えるそうだ。被害者が加害者を訴えるのが基本で、ぶつけられた車を運転していた人や支払いを拒否した保険会社といった間接的な関わりしか無い人たちは原告や被告にはなりにくいそうだ。さらに書類の記入方法、被告を召還する手紙の依頼方法、実際の裁判でのお勧め戦略など。手際のいい人のサービスを受けるのは非常に気持ちいい。
結局、車の持ち主の友人が裁判を起こすことに決定。運転していた僕の妻は証人。僕は証人の通訳。説明パンフレットに最初から「家族や友人を通訳として連れてきて良い」と書いてあるところがカリフォルニアらしい。申し込んでから約1か月後が裁判の日となった。
そして、当日。
指定されていた午後1時の少し前に裁判所に行ってみると、以前に交通違反で行ったところと同じ第17小法廷だった。裁判所から見ると交通違反と同じぐらいの小物なんだなあ、と思いながらまだ開いてないドアに貼ってある紙を見ると、その紙は "Smith vs Green" "White vs Brown" といった感じで15ほどの「対戦」が並んだリストだった。これを半日で全てこなすわけだ。小物感増大。
ドアが開いて入ると、まず係員の説明。裁判官の名前と略歴を述べた後、全ての被告原告を順番に呼んで、この裁判官に裁かれることに異議が無い旨の書類にサインを求める。この時点で相手が来ていなければ自動的に勝訴らしい。証拠品らしきパソコンを持っていた一団は、サインした後で嬉しそうな顔で出ていった。
そして、裁判開始。原告と被告が呼ばれる。まず、原告の申し立て。裁判官が質問。被告の弁論。裁判官が質問。原告と被告が直接話すことは無く、弁護士がいないので尋問も無い。基本的には、最初の申し立ての後は裁判官の質問に原告・被告が答えるだけ。みんな色々な証拠を持ってきているし証人を連れてきている人もいるが、裁判官は全てに目を通すわけではない。思ったよりずっと簡単なものだ。
そして、僕たちの番が来た。スモールクレイムアドバイザーが言ったとおり、僕たちのは「非常にシンプルなケース」だった。後ろから追突した人が悪い。ただし、何も無いところで止まったのも全く悪くないとは言えない。被害額はスモールクレイム上限額を超えているので、被告は上限5000ドルの75%、3750ドルを支払うこと。比率がちょっと悪いような気もするけど、これは勝訴だ。その時は素直に嬉しかった。
この決定が出るまでに、裁判官は話を聞いて、警察の調書を読んで、質問をいくつかしただけ。もちろん文句が出ないように、原告・被告の主張と質問には全てきちんと答えていたけど。トランクが凹んだ友人の車の写真も、妻の証言も全く出る幕は無かった。全くもって簡単だ。
交通違反の時と一緒で、テレビや映画を通じて自分がイメージしていた「裁判」と今回の裁判とは全く違ったものだった。ああいう高度に威厳を持たせた文化的なものよりも、むしろ小学生の喧嘩を先生が仲裁するような雰囲気に近い気がする。まあ実際は、裁判所の威厳とか弁護士の厳格な雰囲気とかは、一般の人たちを気持ち良く決定に従わせるためのもので、もともとの裁判制度の始まりは、小さな諍いを解決するために「おらたちだけじゃ埒が開かねえ、村の長老のじさまに決めてもらうべ」なんてものなんだろう。
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