1999年06月21日
君がうらやましいよ
近くの部署のMは、日本人っぽい名字をしている。顔も日本人っぽい。話をしてみると、実際に両親が日本人だという。日系二世なのかい?と聞いたら、四世だそうだ。
日本語はあまり出来ないけれど、勉強しているそうだ。時々メールで、細かい敬語の使い方について質問してくる。いろいろ教えてあげるのは構わないけど、聞いてくる事は下手するとネイティブの日本人でも間違えるような細かい言い回しばかりだ。そういう細かい事を気にしているから会話があまり出来ないんじゃないかな。それとも、授業でそういうことをやっているから聞いているだけなのだろうか。
今日みんなでビリヤードを軽く5時間ほどやった後、彼とまた日本語についての話。
「この前漢字のテストがあったんだよ。自分は大体は書けたのに、先生はどうでもいい細かい部分が間違っていると言って減点するんだ。読めるんだからいいと思わないか?」
例を出してもらうと、正解は「午後」なのを「牛後」と書いたそうだ。いや、意味は分かるかもしれないけど正解とは言えないよこれは。笑われるぞ。そして、次の例。彼の字を見て何と書いてあるのか分からん、と言うと彼はとても悲しそうだった。「鉄」と言う字だったのだが、偏も旁も見たことの無い物に変形していたのだ。
その後、彼の家に行ってもう少し話をした。初めて行ったのだけど、部屋を見てびっくり。大きな角凧が飾ってある。ラジカセには日本語学習のテープ、本棚には日本語の教科書、漢字学習帳。部屋の半分以上が日本のもので埋まっている。アメリカで生まれ育って、日本に1度しか行った事が無くてもこんなに興味を持つものなのか。それとも、1度しか行った事が無いから興味を持っているのだろうか。
そう言うと、自分には日系人の感情が良く分からない、と彼は言った。
「アメリカ社会でうまく行く事だけを考えて、日本には興味持たない人がたくさんいるんだ。文化を学ぼうともしない、言葉にも興味が無い。それでも日本人の野球選手とかが出てくると、一生懸命応援する。ダブルスタンダードを持っているように見えるんだよ」
うーん、良く分からない。アメリカでの日系人の地位を上げる事に結びつくから応援しているのかな?
そして、彼の日本語習得のための情熱の話。去年の秋に行ったときは、親戚と全然コミュニケーションできなかった、もっと日本語の会話が出来るようになりたい、漢字も書けるようになりたい。でもそこまで行くにはまだまだ道が長い。どうすればいいと思う?
僕の答え。
とりあえず絞る事が必要に見える。何といっても、スタートが遅かったんだから。例えば、他の人から聞いた話では、大学で日本語を学ぶクラスで漢字を全く書かせないクラスがあった。そのクラスでは漢字の書き取りだとか筆順だとかを教える時間を無駄だと考え、漢字の部分ごとの意味を教え、漢字については読めるようになることだけを目標にしている。実際に漢字を書く必要が無い(タイプするだけの)日本人はたくさんいるし、読めてローマ字表記が出来ればワープロで日本語の文章を作る事は出来る、という理屈だそうだ。もちろん習うのが楽しくて、趣味も含めて漢字の勉強がしたいのなら止めはしない。これはあくまでビジネスに利用する事のみを考えた場合の話。
予想していたとおり、彼の答えは
「漢字を勉強するのは楽しいし、書けるようになりたい」
だった。そりゃ、楽しいと思わないとそんなにたくさん本を買ったりしないだろうな。でも、新聞の記事を読むのにすべての漢字を辞書で引いて、1つの記事で何時間もかけるのは嫌になる、とも言っていた。
どこかで見かけて読み方を覚え、書くときに細かく見て正確に覚える...というのが普通の漢字の覚えかたのような気もするなあ、と言うと、彼はちょっと悩みはじめたようだ。今の彼が日本語に接する機会は授業ぐらいしかない。それだけで結果を出す方法を僕が知っているわけではなく、僕に出来るのは想像するだけだ。どうするのが一番良いのかは誰にも分からないのだから、僕の答えはいたずらに混乱させただけ、と言う事になるのだろうか。言語を学習する人に対して普通のネイティブスピーカーが出来る事は、正しい表現と発音を聞かせる事だけなのかも知れない。
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